[ 要 点 ]
◆手付けは、解約手付けと推定される。
◆自分が履行に着手しても、相手方が着手していないときは、手付け解約ができる。
◆手付け解除の場合は、損害賠償を請求することができない。
◆買い戻しの特約が認められるのは、不動産だけである。
◆買い戻しの特約は、売買契約と同時に行う必要がある。
1、手付け
(1) 手付けの意味
手付けとは、売買契約の締結に際して買い主から売り主に交付される金銭のことである。
手付けには、1、証約手付け(売買契約成立の証拠として交付されるもの)、2、解約手付け(手付け額だけを損すれば、特別の理由がなくても、自由に契約を解除できるという趣旨で交付されるもの)、3、違約手付け(債務の履行を確実にするために交付されるもの)の3種類がある。
(2) 解約手付け
手付けには、各種のものがあるため、どの種類の手付けであるかが不明確な場合が生ずる。そこで、民法は、手付けは解約手付けと推定されると規定している(民法7条1項)。
債務不履行など特別の事情がなくても、手付けを交付した買い主は、手付けを放棄して、手付けを受領した売り主は、手付けの倍額を償還して、自由に契約を解除することができる(損害賠償請求などの問題も発生しない。)
ただし、契約の相手方が、履行に着手して後は、解約手付けによる解除をすることができない。
例えば、A所有の建物のAB間において、BがAに手付け300万円を交付したとしよう。単に、手付けとして交付していたにすぎないため、この手付けは、解約手付けと扱われることになる。
その結果、本来ならば、債務不履行など特別の事情が無い限り、解約は認められないはずであるが、Bは、その300万円を放棄してAは、受領した300万円の倍額の600万円をBに償還して、自由に契約を解除することができることになる。
ただし、無制限に解除を認めると、相手方に迷惑がかかることになるため、Aが履行に着手したときは、Bは、300万円を放棄しても解除できず、同様に、Bが履行に着手したときは、Aは、600万円を償還しても、契約を解除することはできないとされている。
なお、自分が履行に着手していても、相手方が履行に着手していなければ、手付けによる解除ができる。
2、買い戻し
(1) 買い戻しの意味
買い戻しは、不動産の売買契約の締結と同時に、「後で売り主が売買契約を解除する」旨の特約をし、実際に後で売買契約を解除して当該不動産を取り戻すことをいう。
例えば、Aが土地を所有しているとしよう。一時的に厳禁が必要となった場合に、後で契約を解除する旨の特約をしてこの土地をBに売却し、Bに代金を返還できるようになった場合に、Aが契約を解除して、代金をBに返還し、その土地を取り戻す場合である。
(2) 買い戻しの要件
このように買い戻しの特約とは、後で契約を解除することの特約にすぎず、買戻権とは約定解除権に他ならない。
ただし、買い戻しの特約を自由に認めると、お金に困ったAが不利な特約をBから押しつけられるおそれがある。そこで、民法は、買い戻しの特約について、次のような制限をしている。
1、買い戻しの目的物は、不動産に限られる。
2、買い戻しの特約は、不動産の売買契約と同時にしなければならない。
3、買い戻しには、代金と契約費用を返還すれば足り、利息を返還する必要はない。
4、買い戻し期間については、
ア、買い戻しの期間は、10年を越えられない。越えたときは10年に短縮される。
イ、期間を定めなかったときは、5年以内に買い戻す。
ウ、期間の伸長(更新)は認められない。
(3) 買い戻しの特約と第三者
例えば、先の例で、Bが当該土地をCに売却してしまったとしよう。Aは、AB間の売買契約を解除して(解除により、AB間の契約は遡及的に消滅し、Bは初めから無権利者であることから、Bからの譲渡人Cも無権利者であるとして、)Cから土地を取り戻すことができるかがここでの問題である。
Cとしては、このような特約があることは通常は知ることができないため、当然に土地の所有権を失うというのも酷である。
そこで、Aは、買い戻しの特約について登記をしておかなければ、Cから取り戻すことはできないとされている。
なお、買い戻しの特約の登記については、売買契約による不動産の所有権移転の登記と同時に登記することによって第三者に対抗することができる(解除権を行使して、第三者から不動産を取り戻すことができる)。
売買 2 (売り主の担保責任)
[ 要 点 ]
◆他人物売買も有効である。
◆全部他人物売買において、悪意の買い主にも解除権が認められている。
◆一部他人物売買において、悪意の買い主にも代金減額請求権が 認められていない。
◆数量指示売買において、悪意の買い主には代金減額請求権が認められていない。
◆瑕疵担保責任における瑕疵には、法律的瑕疵も含まれる。
◆瑕疵担保責任においては、買い主の善意・悪意を問わず、代金減額請求権は認められていない。
◆売買の目的物に地上権等の制限がある場合、買い主の善意・悪意を問わず、代金減額請求権は認められていない。
◆売買の目的物に抵当権等の制限がある場合、買い主の善意・悪意を問わず、代金減額請求権は認められていない。
◆売買の目的物に抵当権等担保物権の制限がある場合だけでは、買い主は契約を解除することができない。
売り主の担保責任の性質
債務不履行責任が認められるためには、売り主の責に帰すべき事由(故意・過失)が必要である。
これに対して、売り主の担保責任は、無過失責任であり、売り主に故意・過失がなくても、認められる。以下、順次内容を説明します。
(1) 全部他人物売買
全部他人物売買とは、他人の物を目的物とする売買をいう。
初めから他人の物であることを断っている場合とAが自分の物であると言って売る場合がある。
このような全部他人の物の売買契約も有効であり、売り主は、他人からその物を取得して買い主に移転する義務を負う。
売り主が、他人からその物を取得して買い主に移転できないときは、買い主は、善意・悪意にかかわらず契約を解除することができ、善意の買い主は、損害賠償の請求もできる。(民法560条)
なお、権利行使期間についての制限はない。
(2) 一部他人物売買
一部他人物売買とは、目的物の一部が他人の物である売買をいう。
売り主は、他人から取得して買い主に移転する義務を負うが、これができないときは、買い主は、善意・悪意にかかわらず代金減額請求ができる。
また、善意の買い主は、損害賠償請求をすることができ、残部だけでは買わなかったであろうと認められる場合は、契約を解除することもできる。
なお、善意の買い主は、事実を知った日から1年、悪意の買い主は、契約の時から1年以内に権利を行使ししなければならない(民法563条)。
(3) 数量指示売買
数量指示売買とは、例えば、BがAから1平米100万円で100平米の土地を代金1億円で買ったところ、実際には90平米しかなかった場合など、数量を指示して売買した目的物が不足していた場合や、目的物の一部が契約当時から滅失していた場合である。
このような場合は、善意の買い主は、代金減額請求、損害賠償請求、また、残部だけでは買わなかったであろうと認められる場合には、契約を解除することができる(民法565条、563条)
なお、権利行使期間については、事実を知った日から1年以内に限られる。
(4) 瑕疵担保責任
例えば、自動車を買ったところブレーキが故障していた場合など、売買の目的物に瑕疵(傷のこと)があった場合が、売り主の瑕疵担保責任の問題である。
このような場合には、善意の買い主は、損害賠償請求、また、契約をした目的を達成できない場合には、契約を解除することができる。
なお、権利行使期間については、事実を知った日から1年以内に限られる。
(5) 地上権等による制限
例えば、BがAから建物を建築する目的で土地を買ったところ、その土地上には、Cの地上権が設定されていたとしよう。Cの地上権が登記を具備していないときは、Bが先に土地について所有権移転登記を受ければ、Cの地上権を否定することができる。
しかし、Cの地上権が登記を具備していたときは、Bは、Cの地上権を否定することができず、Cが土地を利用することを認めざるを得ず、自分で土地を利用できないことになる。
そこで、このような場合は、善意の買い主は、損害賠償請求、また、契約をした目的を達成できない場合には、契約を解除することができる。
なお、権利行使期間については、事実を知った時から1年以内に限られる。
(6) 抵当権等による制限
BがAから土地を買ったところ、土地にCの抵当権が設定されていた場合、Cの抵当権が登記を具備していないときは、Bが先に所有権移転登記を受けることにより、Cの抵当権を否定することができる。
しかし、Cの抵当権が登記を具備していたときは、Bは、Cの抵当権を否定することができず、Bは、その抵当権つきの土地を購入したことになる。そして、この抵当権が実行されて、土地が競売にかけられたときは、結局、Bは、土地の所有権を失ってしまうことになる。
そこで、買い主は、善意・悪意にかかわらず、損害賠償請求、契約を解除することができる。
なお、権利の行使期間についての制限はない。
(7) 売り主の担保責任に関する特約の制限
契約自由の原則上、売り主が担保責任を負わないという契約も有効である。
しかし、売り主が目的物に瑕疵があることを知っていた場合や、自分で土地に地上権や抵当権を設定した上でこれを売った場合にまで、売り主が責任を負わないとするとは公平でない。
そこで、民法は、原則として売り主が担保責任を負わない旨の特約も有効だとしている。ただし、売り主が知りながら買い主に告げなかった事実や、自分で第三者に設定・譲渡した権利については、売り主は、担保責任を免れることはできない。