■ 債権
債権は、契約から生ずる引渡し債務の効力や、金銭債権の履行確保に関する諸制度の規定からなる「債権総則」と、債権の発生原因について定めている「債権各論」とからなります。
債権発生原因について定めているのが、民法典の「債権各論」です。
「契約」(第2章)、事務管理(第3章)、不当利得(第4章)、不法行為(第5章)の4つの債権発生原因が定められています。
このうち、事務管理、不当利得、不法行為の3つは、法定の要件を満たせば、法律上当然に債権が発生し、その発生する債権の内容も法律によって定まっています。
条文を中心に丁寧にその要件と効果をおさえて行くことが大切です。
「契約」は、当事者の意思表示によって法律効果を発生する法律行為であり、契約による債権の発生の根拠は、当事者がそれを約束したことに求められます。
民法典には、13種類の典型契約が定められているので、権利移転型、利用型、役務提供型、その他の契約に大別されるそれぞれの契約の特質に注意して下さい。
「債権総則」は、各種の原因によって発生した債権が共通にもっている性質や効力についての規定を、パンデクテン方式により集めた部分です。
非常に一般的・抽象的な定め方がなされているので、具体的な状況を想定しながら考えて行くようにしなければなりません。
例えば、典型的な債権として、売買契約から発生する「目的物の引渡し債権」を念頭におけば良いでしょう。
ただし、債権総論の中には、「金銭債権」を想定して考えられる、債権の履行の確保に関連する諸制度もあります。
そこでは、民法の定める履行の確保の諸制度について学んで行きますが、民法のなかでも最も実践的・技術的性格の強い部分である反面、原理原則を踏まえた議論が必要となり難しい分野といえます。
なお、一連の制度の中で、「比較の視点」を意識して、似たような事項に関して、それぞれの扱いの違いについて一覧表を作成してみると理解が深まります。
例えば、多数当事者の債権債務関係であれば、連帯債務、保証債務と連帯保証債務とで、対外的効力として催告・検索の抗弁権があるかどうか、一人に付いて生じた事由が他の債務者に無影響なのかどうか、内部関係について求償権の範囲はどの程度なのかなどを表にまとめてみて下さい。
表の項目選定について自分の頭を使って考えてみることが、当該制度の理解を深めることにつながるはずです。
[ 要 点 ]
◆1つの物を動じに複数の人が譲り受けるという債権も成立しうる。
◆特定物債権の債務者は、引き渡しをするまでは善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)を負う。
◆種類債権の債務者の注意義務は、自己の財産におけると同一の注意で足りる。
1、債権とは。
すでに述べたように、売買契約が有効に成立した場合、買い主は債務者に対して「目的物を引き渡せ」と、売り主は買い主に対して「代金を支払え」と請求することができる。
このように、特定の人に対して一定の行為(給付)を請求することができる権利を「債権」という。
債権と物権は、以下の点で大きく異なる。
物権は直接・排他的に物を支配する権利であることから、1つの物の上には同一内容の物権は2つ以上成立しない。(一物一権主義)
これに対して、債権は排他性がなく、同じ内容の権利が成立しうる。このことから、債権の目的(内容)も、原則として契約によって当事者同士で自由に決めることができるのである。
もちろん、その場合でも公的良俗や強行規定に違反しない適法なものでなければならない。
2、債権の目的
債権の目的(内容)は、物の引き渡し、代金の支払いに限られているわけではない。特定の人に、決まった日までに絵を描いてもらうことや演奏会で演奏してもらうことも債権の目的となりうる。
(1) 特定物債権と不特定物債権
例えば、売買契約において、「この家だったら買おう」というように、物の個性に着目して取引する物を特定物といい、それ以外の物を不特定物という。
特定物債権の債務者は、特定物の引き渡しをするまで、善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)を負う。
この善管注意義務を怠れば、債務不履行責任を負い、損害賠償責任を負うことになる。
善管注意義務は、職業や社会的地位に応じて通常気体されている程度の抽象的・一般的義務であるといわれている。これに対して、注意義務の程度が軽減され、行為者の具体的な注意能力に応じた注意をすれば足りるとされる場合が、自己の財産におけると同一の注意義務である。
(2) 種類債権
種類債権は、例えば、ビール1ケースを注文する場合のように、一定の種類に属する物の一定量(不特定物)の引き渡しを目的とする債権である。
物の個性は問題とはならない。そのため、目的物が滅失した場合において、債務者に帰責事由がなくても、同種の物が市場に存在する限り調達義務を負う。
(3) 種類債権の特定
種類債権は、視類債権が特定した時から特定物債権となり、その特定物を給付すればよい。先の例によれば、債務者がビール1ケースを債権者の住所に届けた時に特定する(現実の提供)。
種類債権のうちは、危険負担の問題は生じない。また、注意義務の程度は、自己の財産におけると同一の注意で足りる。
(4) 金銭債権
金銭債権は、一定額の金銭を支払うことを目的とする債権であり、代金債権や賃金債権などが金銭債権にあたる。
金銭債権については、世の中から「お金」がなくなることはないので、履行不能ということはありえない。履行遅滞が問題になるだけである。そして、金銭債権の履行遅滞による遅延賠償については、債務者の故意・過失や実損害の有無に関わらず、債務者は遅延利息を支払わなければならない。
(5) 選択債権
選択債権とは、例えば、数枚の絵の中から1枚を譲ってもらう債権のように、選択によって内容が定まる債権のことをいう。
選択権は、一般に契約において定められる場合が多いが、特に定めがなければ債務者が選択権を有する。
債務不履行
[ 要 点 ]
◆債務不履行の種類には、1、履行遅滞、2、履行不能、3、不完全履行がある。
◆履行不能は、契約成立後に履行が不能となった場合の問題であり、契約成立前から不能の場合は、契約は無効である。
◆確定期限付き債務は、期限が到来した時から履行遅滞となる。
◆不確定期限付債務は、債務者が期限の到来を知った時から履行遅滞となる。
◆あらかじめ債権者が弁済の受領を拒絶している場合は、債務者は口頭の提供をすれば、履行遅滞の責任を免れる。
1、債務不履行
(1) 債務不履行の意味
債務不履行とは、債務者が、契約内容に従った債務の履行(弁済)をしないことであり、1、履行遅滞、2、履行不能、3、不完全履行の3種類がある。
(2) 履行遅滞
履行遅滞(金銭債務の履行遅滞を除く)とは、1、履行が可能であるにも関わらず(履行できない場合は履行不能)、2、債務者の責に帰すべき事由により(故意(わざと)又は過失(不注意)。帰責事由がなければ履行遅滞とはならない)、3、履行期(弁済期)になっても、4、履行(弁済)の提供をしないことが(履行の提供をすれば、履行遅滞とはならない)、5、違法であること(正当な理由がないこと)をいう。
(3) 履行遅滞となる時期
債務者が履行期になっても履行しない時に履行遅滞となるが、具体的には、債務の種類により、以下のように定められている。
1、確定期限付債務
確定期限付債務とは、「来年の10月20日」など、いつ期限が到来するかが事前に確定している場合である。確定期限付債務は、期限が到来した時から履行遅滞となる。
2、不確定期限付債務
不確定期限付債務とは、「Cが死亡したら」など、必ず到来するがいつ到来するか不確定な場合である。不確定期限付債務は、期限の到来を債務者が知った時から履行遅滞となる。
3、期限の定めのない債務期限の定めのない債務とは、履行期を定めなかった場合であり、債務 者が債権者から履行の請求(催告)を受けた時から履行遅滞となる。
(4) 履行の提供
物の引き渡し債務の履行は、1、債務者が履行の準備をして、2、債権者が目的物を受領することによって完了するが、1、のことを履行の提供(弁済の提供)という。
債務者が自分一人で行うことができるのは、1,だけであり、債務者が履行の提供をしたのに、債権者が目的物を受領しなかったとしても、債務者が契約を守らなかったとは言えない。
そこで、債務者が、履行の提供をすれば、履行期に履行をしなくても、履行遅滞の責任を負う必要はない。
履行遅滞の責任を免れるためには、原則として債務者は、目的物を債権者に引き渡すために必要なすべてを行う必要がある。(これを現実の提供という)。
債権者が受領を拒否している場合にまで、現実の提供をさせることは公平でないため、この場合は、口頭の提供で足りるとされている。
例えば、賃貸人が賃料の受領を拒絶しているときは、賃借人は、賃料を賃貸人の住所まで持参する必要があるが、賃借人は、口頭の提供をすれば、(支払いの準備をして通知すれば)、履行遅滞の責任を負わなくてもすむことになる。
このように、債務者が履行の提供をしたが、債権者が弁済の受領を拒み、又は受領することができない場合は、債務者は、目的物を供託所に供託して、債務を消滅させることができるとされている。
2、履行不能
履行不能とは、例えば、Aがある建物をBに売却した後、Cにも二重に売却してCに登記を移転した場合や、建物をBに引き渡す前に失火によって建物を焼失させてしまった場合のように、契約成立後に債務者の責に帰すべき事由(故意又は過失)によって、債務を履行することができなくなることをいう。
契約成立前から不能な場合は、契約は無効である(原始的不能)。これに対し、契約成立後、売り主の責に帰すべき事由によって目的物が滅失・毀損した場合が危険負担の問題である。
3、不完全履行
不完全履行とは、例えば、パソコンを1台注文したが、送られてきたパソコンに破損があった場合のように、債務は履行されたが、その内容が債務の本旨に従ったものでない不完全な履行のことをいう。
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