公正な刑事裁判を実現するために取材の自由を制約することが許されるかは、そのための必要性などと、取材したものを証拠として提出することにより取材の自由が妨げられる程度などを比較衡量して決せられるべきであり、なおかつ、報道機関の不利益が必要な限度を越えないよう配慮されなければならない。
その見地に立てば、本件取材フィルム提出は、なお受忍されなければならない程度のものである。
報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。
したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の(報道)の(自由)は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。
また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、(報道)の(自由)とともに、報道のための(取材)の(自由)も、憲法二一条の精神に照らし、(十分尊重)に値いするものといわなければならない。
〜 中略 〜
しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。
公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。
このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。
しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなけれぼならない。
〜 結論部分 〜
現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フイルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。
他方、本件フイルムは、すでに放映されたものを含む放映のために準備されたものであり、それが証拠として使用されることにつて報道機関が蒙る不利益は、報道の自由そのものではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるというにととまるものと解されるのであつて、付審判請求事件とはいえ、本件の刑事裁判が公正に行なわれることを期するためには、この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立つても、なお忍受されなければならない程度のものというべきである。
□ 外務省秘密漏洩事件上告審
(最決昭53・5・31刑集32-3-457)
報道機関の取材行為といえども他人の権利・自由を不当に侵害しうるものではなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合や、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合には、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる。
□ サンケイ新聞意見広告事件上告審
(最判昭62・4・24民集41-3-490)
表現の自由等の自由権は、国に対して個人の自由を保障するものであって、私人相互の関係に適用されるものではないので、本条から直接に反論文掲載の請求権は生ぜず、また他にこれを認める法の明文の規定も存在しない。
反論権の制度が認められるときは、新聞社が批判的記事ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょする恐れもあり、民主主義社会においてきわめて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすので、反論権を認めることはできない。